Япония: цивилизация, культура, язык 2022

«ISSUES OF JAPANOLOGY, vol. 9» St-Petersburg State Univ 2022 673 生きることを欲しない人間に、生きることを欲する よう説教することは滑稽である。人生が直接の満足 を与えない人間に向って、彼には生きることがきわ めて愉快であろうと語ることは誠に誠に滑稽である 9 。 「生きること」は「生きることを喜び得る人によっては じめて価値が生じる」。「生きたくない人間」に 「生きること」を強いることは「滑稽であり、笑止 であり、ありがた迷惑」であるというのだ。これは アルツィバーセフの主張そのものである。そして、 更に自殺願望を持って訪ねてきた女性に対するアル ツィバーシェフの次の言葉を引用している。 人生の事実そのものの中に喜びを見出してゐる者の みが生るべきである。そこに何物をも見ないものは、 彼等は実際寧ろ死ぬべきであると 10 。 このようなアルツィバーシェフの思想を文子は自ら の言葉にして次のように判事に告げる。 生きたい者は生きろ。しこうして死にたい者をして 死なしめよ ―― そこに真の人生がある。 ここには徹底した自我意識がある 11 。しかし、その自我 は生きることよりも死を志向している。なぜならば、獄 9 『金子文子 わたしはわたし自身を生きる ― 手記・長所・歌・年 譜』 ( 梨の木社、 2006 年 8 月 ) p.214 10 注 7 の p.140 11 金子文子の自我意識に影響を与えたのはマックス・スティルナーの 『唯一者とその所有』 (1844 年 ) 、 ( 日本語翻訳は辻潤の『自我経』 1922 年 ) である。金子文子のシュティルナー受容については、拙論「金子 文子のシュティルナー受容」 ( 『国際関係研究』 42 号 ,pp. 61-70 、 2022 年 3 月 ) 参照。

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