Япония: цивилизация, культура, язык 2024
«ISSUES OF JAPANOLOGY, vol. 10» St-Petersburg State Univ 2024 203 サイクルを壊されて定住生活を強いられた。少数先住民 族の人々は衰退の道を辿り、「やがて、この地球上から滅 び去っていかなければならない、運命」 5 を持った存在と見 做される。彼らは譲原晶子の『朔北の闘い』 6 に描かれた ように、厳しい自然と戦いながら樺太の開拓に携わる日 本の下層民の姿の対極に位置していた。 このような「滅亡の民」イメージを持ったサハリン先住民に、 生のエネルギーを見出し活写した小説は、多分、川越宗一 『熱源』 7 が初めてではないか。それは、大国に祖国を追わ れ言葉を奪われた者たちが、「滅亡の民」ではなく、自らの 存在の証を求めて熱い生の鼓動を蘇らせる物語である。 2.川越宗一『熱源』の世界 本著は「本屋が選ぶ時代小説大賞 2019 」及び、 2020 年、 第 162 回「直木三十五賞」を受賞した。サハリン、北海道、 ロシア、ポーランドを舞台にしたスケールの大きい小説 である。物語はおよそ次のようだ。 1875 年の樺太・千島交換条約により樺太がロシア領と なる際、樺太から北海道の対雁に移住したアイヌたちは 和人との摩擦を抱えながら生きていていた。そこにコレ ラと種痘が襲い、移住した 850 人ほどの村人の約半数が 亡くなった。ヤヨマネクフも妻を失い、これを機にロシ ア領となっているサハリンへ帰還する。記憶の中のサハ リンは凍てつく島ながら人々の「熱」を感じさせる場所 であった。しかし、ヤヨマネクフの帰還当時、サハリン はロシアの流刑地であった。その地に流されてきたのが ブロニスワフ・ピウスツキである。ペテルブルグの大学 5 若山純一『オロッコ譚』(穂高書房、 1959 年) p.248. 6 篁書房、 1946 年 . 7 文芸春秋、 2019 年。本文の引用はこれに拠る。
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